N0.23
突然やってくるインスピレーション
社長に「心の準備」「探しつづける目」


画家は常にインスピレーションが来る「危険」に満ちています。
 友人と酒を飲んでいても一人お風呂に入っていても、いつ何時
 「ひらめいた!」となるかわからない毎日です。

 そのときにそれを待ちかまえる用意がなかったら、同じインスピレー
 ションは本当に二度とつかめないのです。

たとえば写真家の才能の差は、いつもカメラを持っているかどうかだと
 思うことがしばしばあります。

 アートディレクターの長女啓典さんはいつもカメラを持っていて、一杯
 飲んでいても10分に1回は気になったものを写真に納めています。
 
 これはなかなか真似できるものではありません。
 超一流のアートディレクターとはこうなんだと、となりで、飲みながら
 いつも思っています。

これだ、と思うチャンスは「おっいいな、あとで撮ろう」と思って取れる
 ものではありません。

 それは食事中に飲みかけのワイングラスを白いテーブルクロスの上に置い
 たときの、一瞬の赤ワインの反射する美しさとか、テーブルに並んだ料理
 の品にだったりとか。

 ぼーっと眺めているとそのままシャッターチャンスが逃げていくばかりか、
 クリエーターとしてのチャンスまでもが去って行く怖い瞬間なんだなと、
 はたから見ていても感じます。

私の場合も常に画家としてのスイッチをONにしておかなくては、いいな
 と思うインスピレーションを取り逃がしてしまい、後で思い出そうにもう
 まくいかず、それはお終いになってしまいます。

ではそのスイッチをONにしておく、とはどういうことなのでしょう。

今度は釣り師のことを考えてみます。水辺で完全に手持ち無沙汰で座って
 いるのではなく、実は彼の前には釣り竿があるのです。

 「どんなとき、めざす魚が来るのですか?」と釣り師に聞くと、たいてい
 「そんなのわからない。来るときには来る」なんて答えるでしょう。

 シャッターチャンスと同じですね。
 そして、画家の場合も、全てのチャンスは 突然何の前ぶれもなくやって
 くるのです。 

 
釣り師はそのとき釣り糸をたれていたかどうかが勝負の分かれ目ですし
 じように画家も心の釣り糸をたらしていたかどうか、ということです。

では心の釣り糸とは何なのか。つまり早い話が心の準備です。
 感性の糸がぴん と引いたら、たとえそのときまで、昼寝をしていても
 がばっと鉛筆を手に掴んで起き上がれるかどうかです。

描きたい何かが心にはある、しかしそれが何なのか未だ形になってなくて
 よくわからない、何だろうと思い続けているとき、何かが目の前に現れる、
 しかしいや違う、これも違うというふうに
「探し続ける目」、これが心
 にないとどうにもなりません。

それは写真家も同じでしょう。釣り師も長靴やバケツばかり釣っていて
 も仕様がないわけで、めざす獲物があるわけです。

 画家の場合もその獲物が何なのか 釣り上げてみないとわからないのです。
 社長も同じです。心の準備」が大事のようです。
                 
            (「ルノワールは無邪気に微笑む」千住 博著より
)                                                                                 


−以上−